ブランディングの「軸となる1枚」、プロカメラマンはこうやって生み出す。
「ブランディング」(権威付け・他社との差別化・働く人のモチベーション向上など)のための原稿を作りたいとの相談をよくいただきます。そのとき「写真はどうしますか?」と伺うと、「編集者・ライターさんが撮ってくれたらそれでいい」といわれることが意外に多いです。筆者も、撮影した写真を提供する機会が珍しくありません。
しかし、ブランディング用の文章には特に、プロのカメラマンが撮った写真を添えた方がいいと感じています。その点について、公私ともにお世話になっている写真家・プロカメラマンの善本喜一郎さんに伺える機会があったので、今回まとめてみました。
■取材協力先
善本喜一郎
写真家
Studio KiPSY代表
公益社団法人日本広告写真家協会 副会長
■目次
「盛らずにそのまま」が、ブランディングでは正解
被写体本人が選ばない・こだわらないのが、いい写真をつくるコツ
業界が変われば、いい写真も変わる
ビジネスに自信がある人こそ、写真の隙に気づいていない
「盛らずにそのまま」が、ブランディングでは正解
――ホームページなどに、文章と合わせて写真がよく載っていますけど、ブランディングにどんな効果があると思いますか?
写真は一瞬でわかるよね。わかりやすい。原稿はもちろん、写真も今どきはAIを使えば“盛れる”(写りをよく見せようと写真を加工できる)けど、写真を見た人が本人に会ったときに「騙された」という印象を持っちゃう。
だからビジネスシーンの上では、等身大のポートレートを出す。例でよくいうのは、アパホテルの(元谷 芙美子:もとや ふみこ)社長はわかりやすいんじゃないかな。盛らずにそのまま。ブランディングでは、それが正しい。
――“盛らずにそのまま”って簡単そうですけど!?
でも、写真を盛っちゃう経営者は多い。SNSとかさ。自分をきちっと世の中に発信できない人はビジネスでも世の中に向き合ってない…という印象が潜在的に植え付けられちゃう。後々トラブルが起きたときに、「あの人は自分の写真も出さない人だから、こんなふうになるんだ…」とつながるんだよね。
だから、経営者が世の中に向けて顔を出せるか・出せないかは大きい。ただ変な顔を出しても駄目。生きてきた人生が顔に刻まれてるわけだから。その人の人生をきちっと撮れる写真家・カメラマン…もしくは、押さえられた写真であればいいわけ。
被写体本人が選ばない・こだわらないのが、いい写真をつくるコツ
――写真を用意するときにどのような点に注意しているんですか?
「本人に写真を選ばせたら駄目」ってよくいうね。要するに、見る人に対して、印象のいい・効果的な写真を選んだ方がいいわけ。
選挙ポスターで例えてよくいうんだけど、年齢層高めの人からは一定の得票が既にある候補者で、若年層へのアプローチを増やしたいなら、若年層にヒットする写真を選べばいいわけで。被写体は変わらないけれど、表情で人の印象って変わるじゃない。表情の違いを、どうセレクトしていくか。
だから、撮ること以上に、「どの写真を使うか」が重要だね。ただ単に印象がいいだけじゃなくて、写真の先に・見た人に何を求めてるか。選挙でいえば、信頼に資する好印象が与えられる写真かどうか。
――単なる印象がいいだけじゃ、ビジネスシーンではイマイチなんですね
もちろん、好印象につながる何かが当人になければそもそも写らない。人となりがそのまま写っちゃう。それでも、判断は見る人のリテラシーによる。見る人が今まで歩んできた人生…どんな人と会って、どんな経験をしたかの積み重ねが“見る目”につながる。
同じ写真でも、見る人によって印象も・効果もまったく異なる。経営者のポートレートで、投資家向けと新卒の学生向けが同じではおかしいわけ。目的が違うじゃない。それがわかってるかで、大きく結果は変わる。
ビジネスシーンで一番大事なのは、「どこにアプローチしたいか」と「どんなフィードバック・行動・結果を求めたいか」を、戦略的に・事前に考えて撮る・選ぶ・使うことかな。
――男性と女性の違いもあったりしますか?
女性は、自分の容姿に自信がないんだよね。気になるところが男性に比べて多い傾向がある。あと細かいところにこだわる。メイクも、プロに任せればいいのに。その人のいいところを見つけようとしてるわけだからね、一番アピールできる。世の中・社会に対しての印象とかも考えながら。
――メイクも合わせてプロに任せた方がいいわけですね
目的は、ビジネスの発展でしょ。ビジネスの評価を落としたいなら、好きにすればいいけど。よくいうのは、その人が持ってる等身大のパフォーマンスの一番いいところを引き出せるメイクがいい。だから、メイクもしすぎちゃったら…ねぇ…。写真を見たクライアントと会うときのメイクや表情が一番いい。写真と実際会ったときとの違和感が少ないから。
業界が変われば、いい写真も変わる
――情報発信を皆さん盛んに行われていますが、きちっとした写真とカジュアルな写真をどう使うのがブランディングに効果的だと思いますか?
オフィシャルないい写真が1枚あって、その印象が強ければ、ブランディングにおいてもやっぱり強い。ほかで撮ったスナップを出したとしても、オフィシャルな1枚の強いイメージが残ってるから、『こんな表情もあるんだな』と幅が広がる。逆に、軸になる1枚がないと、ごちゃごちゃになっちゃうよね。
――ごちゃごちゃになったというか、善本さんが撮っても失敗した例とかあったりするんですか?もしくは善本さんの考えと違って、印象に残っている例とか?
うちで撮ってひどかったのはないね。僕の考えと違っておもしろかった例は、ある不動産屋の社長さんを撮ったときかな。すごいいい人なんだけど、“はったりでやってます!”って感じで、“見るからに”なんだよ。
そのときは出張で先方の社長室で撮ったのね。で、撮ってその場で見せるじゃん。そしたら、やっぱりヤバいんだよ。元々だからさ。だけど、周りにいる社員さんが「社長、いいですよ!はったりが効いてていいです!」っていうわけ。社長も、写真を見て「これぐらいはったりが効いてたらいいや」みたいな。
要は、僕らが見る“いい写真”と、その世界の人たちの“いい写真”の基準が違う。はったりが効くぐらいの方がビジネス上よくて、いいヒト感が出ちゃったら逆に駄目な世界なわけ。僕の中でも、『あっ、この世界ではこれなんだ』と。目的・ターゲットに向けての効果的な写真は何かを考えさせられたね。
――我を通すわけじゃなくて、しっかりヒアリングをするんですね
どんな印象になるかを、できるだけ最終的なお客さんやクライアントの気分になって写真を見るね。だけど、不動産業界の人の気分になるには、どう考えても僕の経験値が足りなかった。見る人の目に変わらないと駄目なんだよ。それが大事だよね。
――経営者を撮るときに特に意識してヒアリングしていることってあったりするんですか?
ビジネスポリシーというか、その人が社会にどう向き合ってるかを聞くよね。その人の会社や社会に対する思い。どんなビジネスをして、社会と関わっていきたいのか、夢とか希望とか。そんな質問を振ると、大体の経営者ってよく喋る。
“喋ってくれたことを写真で表現する”みたいなこと…「社長の顔一つで、それが伝わるんですよ」っていうと、目の色が変わって喋り出す。そしたら、そのままその顔を撮ればいい。そんな話をせずに、ただ「撮ります」ってしてもね。僕が撮っても、その人は単なるカメラマンとしか思ってくれない。
「この人、私のビジネスに興味を持ってくれるんだ」「この人はほかのカメラマンと違うな」「そういうことを聞くんだ」みたいに思うと、その人が勝手にスイッチを入れてくれる。
――考えとかポリシーみたいなものから、イメージをつくったりはしないんですね
つくらない。引き出すだけ。引き出して余計なものを削ぐ。持ってるんだよね、皆さん。「脚色しない」ともいえるかな。変な盛り方はしない。
ビジネスに自信がある人こそ、写真の隙に気づいていない
――「軸となる1枚」が大事なんだと、話を伺って感じました
軸となる1枚は、Web上にずっと残る・365日24時間晒される。それを意識しないと。世の中に常に向けてる顔が、適当なものでいいのかと。
見られるから、意外に。写真で判断をする人が多いから。普通、何かしらのサービスを利用するときには、どんな人がやってるのか写真をチェックするし、それで決めるじゃない。自分らがやってるわけよ。それが、いざ自分の写真になったら、あんまり構わないってのはおかしいよね。
――自分が見ているのに、見られているとは思っていないわけですね
意識してないんだよ。“写真なんか何でも大丈夫”みたいな。ビジネスに自信がある人ほど、陥りやすい。そこまでわかってる人は、写真も隙がなくやってる。
ブランディング用の文章にプロカメラマンの写真を添えた方がいい理由を、あなたも感じていただけましたか?
くわえて、“そうはいってもプロのカメラマンを呼べなくて、自分で写真を用意しなければならない”人のために、撮影するときに意識したいポイントも善本さんに聞きました。予算の都合上で、筆者自身が撮る機会がありますので。
ただノウハウを紹介してしまうと、(本人は快く喋ってくださいましたが)善本さんへの依頼が減る原因にもなりかねません。そのため、ほかでの公開や転載を決してしないと約束いただける人で「続きが読みたい」と要望をくださった人のみに限定してお渡ししたいと思います(2025年3月末日中まで)。業界・職種などは問いません。
ご希望の人は、下のURL先にあるフォームから申し込んでください。
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■取材協力先
善本喜一郎
写真家
Studio KiPSY代表
公益社団法人日本広告写真家協会 副会長
1960年生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)で森山大道、深瀬昌久に学ぶ。1983年に平凡パンチ(マガジンハウス)の特約フォトグラファーとしてキャリアをスタートし、その後も『Tarzan』『BRUTUS』『POPEYE』『Hanako』『relax』など、マガジンハウスの各誌をはじめ、講談社、小学館、朝日新聞社、徳間書店ほか、多くの出版社や企業で活躍。
広告分野では、2004年に「年鑑日本の広告写真」で北島康介選手のArena広告が入選を果たし、以降3年連続でAPAアワード広告作品部門を含む入選を達成。これを契機に公益社団法人日本広告写真家協会(APA)に入会し、現在は同協会の副会長を務める。
2002年にはビジネスポートレートに特化したフォトスタジオ「KiPSY(キプシー)」を設立。2008年からは宣伝会議にて編集ライター養成講座の講師を務め、2015年からはフォトディレクション講座でも指導を行っている。
また、写真集「東京タイムスリップ」(河出書房新社)シリーズは累計3万8000部を突破。Instagramフォロワーは4万4000人に上り、NHKやテレビ東京など多数のメディアにも取り上げられている。
HP:https://kiichiroyoshimoto.jp/
スタジオHP:https://www.kipsy.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/tokyo_timeslip/
https://www.instagram.com/kiichiro.yoshimoto/
■インタビュアー
田中利知
1988年 山口県生まれ
群馬大学 社会情報学部 情報行動学科 卒業
株式会社ダスキン・株式会社オスカープロモーションで営業職を経験。2013年にキャスティングディレクターやライターとしてフリーでの活動を開始。2015年に株式会社ネイビープロジェクトを設立。在京TV局・広告代理店・新聞社の“自社用”の原稿も頼まれる取材・SEOライターとして活動中。
※上の写真も善本さんに撮っていただきたました※
【おことわり】
善本喜一郎さんに撮影を依頼したい場合は、当社・株式会社ネイビープロジェクト宛ではなく、上記の「HP」などから直接でかまいません。